一般社団法人後見適正運用研究所
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いろいろな質問
「後見制度の利用率が約2%と低いのはなぜ?」
平成29年3月24日 閣議決定「成年後見制度利用促進基本計画について」より抜粋
現在の成年後見制度の利用状況をみると、成年後見制度の利用者数は近年、増加傾向にあるものの、その利用者数は認知症高齢者等の数と比較して著しく少ない。 また、成年後見等の申立ての動機をみても、預貯金の解約等が最も多く、次いで介護保険契約(施設入所)のためとなっており、さらに、後見・保佐・補助と3つの類型がある中で、後見類型の利用者の割合が全体の約80%を占めている。 これらの状況からは、社会生活上の大きな支障が生じない限り、成年後見制度があまり利用されていないことがうかがわれる。また、後見人による本人の財産の不正使用を防ぐという観点から、親族よりも法律専門職等の第三者が後見人に選任されることが多くなっているが、第三者が後見人になるケースの中には、意思決定支援や身上保護等の福祉的な視点に乏しい運用がなされているものもあると指摘されている。 さらに、後見等の開始後に、本人やその親族、さらには後見人を支援する体制が十分に整備されていないため、これらの人からの相談については、後見人を監督する家庭裁判所が事実上対応しているが、家庭裁判所では、福祉的な観点から本人の最善の利益を図るために必要な助言を行うことは困難である。 このようなことから、成年後見制度の利用者が利用のメリットを実感できていないケースも多いとの指摘がなされている。
今後の成年後見制度の利用促進に当たっては、成年後見制度の趣旨でもある①ノーマライゼーション※1、②自己決定権の尊重※2の理念に立ち返り、改めてその運用の在り方が検討されるべきである。 さらに、これまでの成年後見制度が、財産の保全の観点のみが重視され、本人の利益や生活の質の向上のために財産を積極的に利用するという視点に欠けるなどの硬直性が指摘されてきた点を踏まえると、本人の意思決定支援や身上保護等の福祉的な観点も重視した運用とする必要があり、今後一層、③身上の保護の重視※3の観点から個々のケースに応じた適切で柔軟な運用が検討されるべきである。
※1 成年被後見人等が、成年被後見人等でない人と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと。 ※2 障害者の権利に関する条約第12条の趣旨に鑑み、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重されるべきこと。 ※3 本人の財産の管理のみならず身上の保護が適切に図られるべきこと。
「後見制度について知らないとどうなるの?」
将来のリスクに備える代表的なものに保険があります。
例えば、自分が死んだ後に残された家族が金銭的に困らないように加入する生命保険。
病気にかかって入院や手術の費用や高度な先進医療を受ける為の費用を補う為の医療保険。
その他、自動車保険や火災保険などいろいろなリスクに備える保険があります。
これらの保険に関しては、おおよそそのリスクを多くの方は理解されていますし、どんな保険が自分の希望に合った保険かを相談する窓口も沢山あります。また、一般の人が誤った説明により不利益を被らないように保険を勧める側も「保険業法」によりその資格取得制度や正確な説明を行うように規制されています。
一方、認知症になってしまった場合にどんなリスクが存在するのかに関しては余り知られていない現状だと思います。
高齢化の進展とともに、認知症患者数も増加しています。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、65歳以上の認知症患者数は2020年に約602万人、2025年には約675万人(有病率18.5%)と54人に1人程度が認知症になると予測されています。
認知症などにより判断能力が低下すると本人による契約行為が基本的にできなくなってしまいます。
・親が何も対策せず認知症になると、親本人の財産の多くが凍結され、その配偶者や子の親本人に関する費用や手続き等の負担が重くなることがあります。(身寄りのないおひとりさまの場合、施設や病院、家主の方など関係者も何もできなくなり行政による法定後見の申立てによらないと解決できず、その手続きには少なくとも3か月程度以上の時間を要するために当面の対応ができずに関係者が対応に窮してしまいます。)
具体的には、
・預金の引き出し・振込・振替手続きができなくなる
・本人名義の不動産の売却ができなくなる
・保険の解約などの手続きができなくなる。
・相続税対策ができなくなる
・遺産分割協議ができなくなる
上記の様な状態に直面した場合に何の備えも予備知識もなしに、金融機関や不動産会社に促されて、行政や専門家に相談された場合はおおむね一番確実な解決方法として「法定後見制度」の利用を勧められます。その際に「法定後見制度」とはどのようなものか保険の説明の様に十分な説明がなされているでしょうか?(保険契約の様に勧める方に資格や説明の正確性を規制する法律もありません。あくまでも手続きをする方の自己責任による手続きです)知識不足で進めてしまうと後で「こんなはずではなかった」と思っても手遅れとなる場合が多いです。何故かというと前段の質問の後見制度の利用率の低さの原因を国も制度の運用やサポート体制に問題ありとしている事からもそのリスクは感じることができるはずです。

「法定後見を利用するとどんなメリットとデメリットがあるの?」
メリット
・本人の預貯金や金融機関の手続きを後見人等が代理して行う事ができる。
・本人の不動産についても家庭裁判所の許可を得て売却することができる。
・本人が不利益な契約を結んでも後から取り消すことができる。
・施設の入居や病院への入院、介護保険の契約などを後見人等が代理して行える。
・いろいろな手続き関して一定の基準で家庭裁判所に相談、報告が必要となる為本人の財産などを守る事につながる。
※同居している家族、親族による本人財産の使い込みや、後見人等による財産の横領なども厳格な管理のもとで防止することがで
きます。後に本人がなくなられた際に親族間のトラブルの防止にもなります。
デメリット
・親族が後見人等になる事を希望しても必ずしも希望が通るとは限らない。
※最終的な判断は家庭裁判所が行いますので、現在は親族が選ばれる割合は2割程度です。
仮に親族が選ばれた場合でも、財産が比較的多いや複雑な財産管理が必要などの場合は監督人が家庭裁判所により選
ばれたり、開始時または後に追加で後見人が選ばれるケースもあります。その多くが弁護士、司法書士などの専門職
が就任するケースがほとんどです。
・専門職等が後見人等に選ばれると管理財産額により毎月2-6万円程度の基本報酬と不動産売却、遺産分割調停や訴
訟など特別な動きをした場合には臨時に数十万円程度からの付加報酬の支払いが認められます。
※専門職の監督人が選らばれている場合は、おおよそ上記の2分の1程度の監督人報酬として家庭裁判所に認められ
るケースが多いです。
・一度制度の利用を開始すると途中で利用をやめることができない。
※保険の場合は加入後思っていた内容と違うなど不満があった場合は解約が可能ですが、法定後見制度の場合は申立
時に希望した人が後見人に選ばれなかった事や家庭裁判所が選任した専門職後見人の対応に不満があったとしても、
余程の事情がない限り本人の判断能力が回復するが死亡するまでやめることはできず、報酬の支払いも継続します。
・本人の財産の管理が厳格になる為に今まで「家計」としての考え方が「本人の個計」という考え方になり、融通がき
きにくくなる。
※本人の意思表示が難しい場合は本人の財産を今まで家族のために使っていたとしても、後見開始後は難しくなりま
す。例えば本人の年金や預貯金から配偶者に渡していた生活費も見直しがなされ大幅に減額されたり、本人のお金で
家族全員を食事や旅行に連れて行くなどの使い方は出来なくなる可能性が非常に高いといえます。また、本人の趣味
に関する支出もその必要性が厳格に判断される可能性も高いと言えます。
・相続税対策や資産運用などができなくなる。
※子供らへの暦年贈与やインフレに備えた投資などはできなくなります。
・家庭裁判所への報告等の手間がかかる。
※年に1回の財産管理や身上監護に関する定期報告に加えて、不定期な判断を仰ぐ連絡票などの提出が必要となりま
す。親族後見人には負担となる方やその場合に家庭裁判所はもちろん、監督人からの十分なサポートを受けることが
できない場合もあるようです。
「家庭裁判所はどうやって後見人等を選んでいるの?」
家庭裁判所は後見等開始の申立を受け、本人にとって後見等が必要と判断した場合はその開始の審判をする際に成年
後見人等を選任します。
成年後見人等の選任に当たっては、ご本人にとって最も適任だと思われる方を選任します。判断基準としては本人に
どのような保護・支援が必要かなどを検討し、親族や法律福祉の専門家などから選任します。よって、必ずしも申立
時の候補者を選任するとは限りません。また、成年後見人等を監督する成年後見監督人などが選ばれることもありま
す。
なお、誰を成年後見人等に選任するかという家庭裁判所の判断に関しては、不服申立てや申立ての取り下げをすることはできません。
「利用率の低さの原因となっているの身上監護や意思決定支援が不十分とはどんなこと?」
本人の「財産管理」と合わせて後見人等の主な役割の一つに「身上監護」があります。「身上監護」とは、成年後見
人が、成年被後見人の心身の状態や生活の状況に配慮して、被後見人の生活や健康、療養等に関する法律行為を行う
こと。例えば、成年被後見人の住居の確保及び生活環境の整備、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続などが
あります
近年「身上監護」ではなく、「身上保護」という言葉が使われるようになりました、「監護」という用語が与えるパ
ターナリスティック(押しつけるよう)な印象を払拭して、少しでも本人中心主義を志向したいとの意図によるもの
です。
後見人等の中には「財産管理」は行うが、本人の心身及び生活の状況を把握する為の定期的な面談も行わずに「身上
監護」が疎かになっているとの指摘もあります。
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民法第858条において「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」と規定されています(身上配慮義務)。
また、「成年後見人の意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」※1が制定されていますが現場での対応は
不十分※2であると考えられる上に、その代行決定を含む内容に関しても国連は日本政府に対して2022年9月に
日本の「代行的な意思決定の仕組み」に関して廃止の勧告をしています。
※1(令和2年10月30日意思決定支援を踏まえた後見事務についての理解が深まるよう、最高裁判所、厚生労働省、日本弁護士連合会、成年後見センター・リー ガルサポート及び日本社会福祉士会により構成される意思決定支援ワーキング・ グループにおいて検討を重ね、成年後見制度の利用者の立場にある団体からのヒアリング等の結果を踏まえ制定)
※2 少し古いデータですが2015年に日弁連が行なった「本人の意思の尊重に関する実態調査アンケート」では、「成年後見人等の職務において,新規のあるいはルーティンではない法律行為を成年後見人等として代理する場合、そのことについて本人の意思を確認していますか。」という質問について、「行為によって異なる」が約50%あり「特に確認していない」という回答が約15%もありました。「特に確認していない」理由としては「確認しても本人は合理的な判断ができない・しにくいから」(75%)「本人は理解や意思決定ができないから成年後見人等が付いており,成年後見人等が判断すれば良いから」が約 17%という結果が出ています。
成年後見人は、認知症高齢者や障がい者の特性を理解した上で、本人の自己決定権を尊重する為の「意思決定支援」を行う事が重要となります。
「意思決定支援」
本人の判断能力に課題のある局面において、本人に必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなど、後見人
等を含めた本人に関わる支援者らによって行われる、本人が自らの価値観や選好に基づく意思決定をするための活動
である為、決して後見人等の独自の価値観のみで行うものではありません。
「代行決定」
①意思決定支援が尽くされても本人による意思決定や意思確認が困難な場合、または②本人により表明された意思等
が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる可能性が高い場合に、最後の手段として、後見人等が法
定代理権に基づき本人に代わって行う意思決定のことです。
問題となるのは、本人が自宅での生活を望んでいるが、後見人がそれを尊重するが為に本人を危険な状態にしてはな
らない理由などにより、本人は判断能力がないのだからと本人への説明を尽くしたり、支援者の意見を聞いたり、周
囲の環境整備の努力も行わずに施設への入居を後見人の独断で代行決定して進めてしまうケースなどです。
本来は後見人においても本人の居所決定権は代理できない行為であるにもかかわらず、また、家庭裁判所への「居住
用不動産の処分許可(賃貸住宅の解約や自宅の売却)」が必要ですが、この処分許可に関しては、後見人等からの許
可申請は取り下げを除くとほぼ100%に近い確率で認容されている現実があります。
「成年後見人等のプロセスの原則」
成年後見人等が行う、意思決定支援及び代行決定には、7つのプロセスの原則があります。
(1)意思決定支援の基本原則
第1 全ての人は意思決定能力があることが推定される。
第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならない。
一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない。
(2)代行決定への移行場面・代行決定の基本原則
第4 意思決定支援が尽くされても、どうしても本人の意思決定や意思確認が困難な場合には、代行決定に移行する
が、その場合であっても、後見人等は、まずは、明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意
思)に基づき行動することを基本とする。
第5 ①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできな
い重大な影響を生ずる場合には、後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての最
善の利益に基づく方針を採らなければならない。
第6 本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、法的保護の観点からこれ以上意思決定を先延ばしにできず、
かつ、他に採ることのできる手段がない場合に限り、必要最小限度の範囲で行われなければならない。
第7 一度代行決定が行われた場合であっても、次の意思決定の場面では、第1原則に戻り、意思決定能力の推定か
ら始めなければならない。
この意思決定支援を行う場面は、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随した事実行為の場
面に限られています。日常生活の場面ではありません。
例えば
①施設への入所契約など本人の居所に関する重要な決定を行う場合
②自宅の売却、高額な資産の売却等、法的に重要な決定をする場合
③特定の親族に対する贈与・経済的援助を行う場合など、直接的には本人のためとは言い難い支出をする場合 など
です。
成年後見人等の権限の広さや本人の生活に与える影響の大きさから、成年後見人等の意思決定支援のプロセスを踏ま
えない安易な推定に基づく法定代理権の行使・不行使が戒められ、代行決定の濫用を防止するために各専門職関連団
体も行動指針を示す事や研修会の実施などを行っていますが、制度の利用率の低さからまだ一部の後見人等では遵守
されていないのではないかと懸念されます。
「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」について(意思決定支援ワーキング・グループ)
https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp/koukenp5/ishiketteisien_kihontekinakangaekata/index.html
※「意思決定支援」の重要性は、2010年の「横浜宣言」においても「成年後見人の行動規範」の項目に盛り込ま
れています。
2010年10月2、3、4日に横浜にて開催された2010年成年後見法世界会議は、成年後見法分野における最
初の世界会議であり、主催者および共催者は今後の世界において成年後見法が果たすべききわめて重要な意義と役割
を改めて確認し、成年後見制度の適切な利用を広く世界に訴えるために「横浜宣言」が発せられました。
(成年後見人の行動規範) 特定の時に特定の意思決定を行う能力を欠くすべての成年者は、意思決定過程において
他に支援や代理を得ることができない場合には次のような資質を有する後見人を持つ権利があることを、更に宣言す
る。
(1)本人に代わって意思決定を行なう際には適切に注意深く行動する。
(2)公正かつ誠実に行動する。
(3)本人の最善の利益を考えて行動する。
(4)本人に明らかな危害が及ばない限り、本人の要望、価値観、信念を事前に知ることができ、または推認すること
ができるときには、それらを最大限に尊重し、遵守する。
(5)本人の生活に干渉する場合は最も制約が小さく、最も一般化された方法にとどめる。
(6)本人を虐待、放棄、搾取から守る。
(7)本人の人権、市民権を尊重し、これらの侵害に対しては常に本人に代わってしかるべき行動を取る。
(8)本人の権利である年金、社会福祉給付金、福祉サービスなどを本人を支援して積極的に取得させる。
(9)後見人という立場を私的に利用しない。
(10)本人と利害対立が起きないよう常に配慮を怠らない。
(11)本人が可能であればいつでも独立した生活を再開できるよう積極的に支援する。
(12)本人をあらゆる意思決定過程に最大限参加させる。
(13)本人の参加を奨励し、本人のできることは本人にまかせる。
(14)正確な会計記録を付け、任命権者たる裁判所あるいは公的機関の要請に応じて速やかにそれを提出する。
(15)任命権者たる裁判所あるいは公的機関より付与された権限の範囲で行動する。
(16)どのような形態の後見が継続して必要であるかについて定期的に見直しをうける。